広い砂浜のある白塚海岸は、カワラハンミョウの生息地として非常に重要な場所です。カワラハンミョウは、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に選定され、2015年に作られた三重県のレッドデーターブックでは、最も危険度の高い絶滅危惧IA類となっています。また、三重県自然環境保全条例に基づき、三重県指定希少野生動植物種に、昆虫として最初に指定された保護すべき最優先種になっています。
カワラハンミョウは、体調14~17mmの小さな昆虫です。成虫は年に1回8月頃に出現し、気温の高い晴れた日中に活発に活動します。光沢のない濃い銅緑色で、上翅に白紋があります。動きは俊敏で、ハンミョウ類独特の短い飛行を繰り返して移動します。この動きが、まるで人に道を教えているように見えることから「道教え」と呼ばれていました。肉食性で、昆虫類・多足類などを捕獲して食べています。幼虫は土中に穴を掘り、扁平な頭を地表に出して、昆虫などを待ち伏せして捕獲し、成虫になるまでに2年かかると言われています。
かつては大きな川の広い河川敷や、沿岸の粒度の細かい砂浜に広く分布していたようですが、近年の河川改修や沿岸の護岸工事により、生息地の河原砂丘、砂浜が分断されてしまい、分布域と個体数が急激に減ってしまいました。現在は全国でも生息地は10箇所程度となっています。
白塚海岸は、伊勢湾周辺に残された唯一の奇跡的に残った生息地であり、国内における太平洋沿岸部の南限産地となり、学術的にも貴重な場所として注目されています。
10年ほど前、白塚海岸の砂浜に下水処理施設建設の計画がありましたが、三重県中南勢流域下水道事務所が中心となって調査を重ねた結果、カワラハンミョウ絶滅の可能性が高いと工事を中断し、堤防より陸側に建設されました。
現在、白塚海岸の堤防の嵩上げ工事が計画されています。自然災害に対する防災計画が重要なのは当然ですが、この度、日本甲虫学会、三重昆虫談話会、白塚の浜を愛する会など(あと数団体が検討中)が、工事の際には、旧堤防より海浜側10m以上は重機工事車両などが立ち入らないよう県に要望書を提出しました。
また、工事後についても堤防が高くなると風が通らないために砂浜の表面が攪乱されず、外来植物や路傍植物が繁茂してブッシュ化してしまうため、何ら保全策を取らずに放置すると数年でカワラハンミョウが絶滅する可能性が極めて高いことから、行政として自然環境保全条例遵守の観点として、海浜植物を除いた除草を定期的に継続するよう求めています。
そして、もう一点、工事後に松などの植栽も行わないよう求めています。植栽によって周辺から草地が発達して生息地を狭める要因になってしまうためです。以前海岸南部分にあるポンプ場付近に多くのクロマツが植栽されたことにより、かつてはカワラハンミョウの生息地であった砂浜が消失しています。現在は、ブッシュ化したクロマツ林、その中の枯れクロマツも放置され危険な状況になっています。
要望書を出したこれら団体は、三重県レッドデーターブック作成時に多くの会員が編纂に関わり、生物多様性保全アドバイザーとして、協力しています。
白塚海岸にはカワラハンミョウ以外にもアカウミガメやシロチドリなど多くの希少生物が生息しており、これらへの影響も懸念さることから、これら専門家集団はいつでも協力する用意があるとしています。
三重県が誇れる貴重な自然財産を絶滅させず永久に見続けられるようにしたいですね。カワラハンミョウが生物多様性の未来の「道教え」となってくれるのではないでしょうか?
協力及び写真提供=日本甲虫学会・三重昆虫談話会会員:乙部 宏 氏